バイクにとってトルク管理は重要になります。
規定トルク以上で締めたボルトやナットは疲労していき、本来のポテンシャルを発揮できません。
規定トルク以下で締めたボルトやナットは緩み、危険を生み出します。
特に重要な部品(エンジンなど)はトルク管理次第で、元々持っている能力を発揮する事は不可能。
必ずバイク整備で必要不可欠になってくるのが「トルクレンチ」です。
バイク整備のプロである現役のバイクショップ整備士でもトルクレンチを毎回使って整備している訳ではありません。
それは長年の経験で培われた技術、感覚でトルク管理をしています。
しかし、プロも人間です。
必ず間違えます。
規定トルクに近いトルクで締める事は出来るでしょうが、狂わずに規定トルクで締める事は出来ません。
毎日バイク整備をしているプロ中のプロでも出来ない事を私達がで出来る訳がありません。
だからこそ、たまにトルクレンチを使って整備をする事が大切なのです。
このように色々な疑問や間違った使い方があります。
トルクレンチを持っていても「間違った使い方」「間違った保管方法」などをする事によって本来のトルクレンチの意味をなさない場合が多々あります。
「簡単に扱えるがとても繊細な工具」がこのトルクレンチ。
簡単に結論は、
トルクレンチを正しく使えるようになると整備技術が向上します。
よくある勘違いですが、トルクレンチは一生物ではありません。
必ず狂います。
トルクレンチは必ず狂うという前提を踏まえた上で購入するのが良いでしょう。
私自身は、安いトルクレンチを2年程度で買い替えています。
しかし、エンジン関係の整備では工具メーカーのトルクレンチを使うようにしています。
結局はどのトルクレンチが良いのか迷う方は、元バイク整備士のゲンがおすすめするトルクレンチをお使い下さい。
トルクレンチの基礎知識
トルクレンチとは、
- 【現在行っている作業(ボルトなどを締めている)が、どのくらいの力で締められているのか】
- 【設定値に合わせる事が出来る】
この2つの作業が同時に行える工具となります。
トルクレンチの必要性
「なぜ、トルクレンチは必要なのか」を考えてみましょう。
1番イメージしやすいのは、「締め付け不足」「締めすぎ」を起こさない為に必要だと考えるでしょう。
では、なぜ「締め付け不足」「締めすぎ」が起きてしまうのかは「人間が整備を行う」からです。
私たち人間は同じ力で毎回ボルトを締める事は不可能です。
同じぐらいの力で締める事は可能でしょうが、結局は「同じぐらい」で「同じ」ではありません。
この「同じ力」をすべての人間に与えたのが【トルクレンチ】となります。
トルクレンチを使わないと起きてしまうトラブルは、
- 締め付け不足による脱落、破損
- オーバートルクによる破損
- オーバートルクによる緩み
- 締め付け不足やオーバートルクによる性能低下
ボルトを締めすぎている事を【オーバートルク】というよ!
1.締め付け不足による脱落、破損
イメージしやすいかと思いますが、ボルトにトルクが掛かっていない状態でバイクを動かすとその部品は外れます。
運よく部品が落ちなくても走行中に脱落したり、破損したりして大事故に繋がります。
自分自身だけでなく、後続車や歩行者に危険を及ぼす可能性があります。
2.オーバートルクによる破損
締めすぎる事によってネジが破損したり、様々な部品(アルミや樹脂部品など)が潰れてしまいます。
3.オーバートルクによる緩み
ネジは伸びる事によって固定されています。
オーバートルクになってネジが規定値より更に伸びてしまう事によって、本来すき間が無い部分に空間が出来てしまいネジとしての役割を果たさなくなります。
ネジやボルトの事は別記事にあるので1度ご覧下さい。
4.締め付け不足やオーバートルクによる性能低下
特にエンジン関係のボルトは、すべてのボルト、ナットが規定値のトルクやボルト自身の伸びなどが設定値にある事によって本来のエンジン性能を発揮します。
例えばシリンダーヘッドとシリンダを繋ぐボルトが規定のトルクや伸びが違えば燃焼室空間が変わります。
そうなる事によって燃焼室の圧力や燃焼速度など様々な影響が出ます。
トルクを規定値にする事を【トルク管理】というよ!
トルクとは
トルクとは、簡単に【回転する力】です。
難しくいうと、物体を回転させる力の大きさを「モーメント」といい、その「モーメント」の中で固定された回転軸の周りにあるモーメントを「トルク」といいます。
難しく考える必要はないのでトルク=回転する力で考えましょう。
バイクでは、トルクは2種類の意味があります。
- エンジン性能の最大トルク(単位 N•m / r.p.m)
- ネジの規定トルク(単位 N•m)
意味合いは同じで【回転する力】を表すのですが、単位が異なる場合もあります。
バイク整備では、トルクとはネジ(ボルトやナット)を締める力の事を指します。
実際に計算する事は無いですが、下記が計算式となります。
T(N•m)=F(N)×L(m) トルク=力×長さ
例えば、10Nの力(F)で1mの長さ(L)でボルトを締め付けると10N•m(T)のトルクで締めたとなります。
計算式は、
10N × 1m =10N•m となります。
工具の長さや持ち手の位置で力の具合が変わるのは体験しているかもしれません。
工具が長ければ長いほど、持ち手の位置を遠くするほど力を掛けずにトルクは掛かります。
ボルトが大きいほどトルクが掛けられています。
その理由からスパナやレンチはサイズが大きいほど、工具の長さが長くなる理由もわかりますね。
安いトルクレンチと高いトルクレンチの違い
トルクレンチはかなり値段差があります。
特にプレセット型のシグナル式トルクレンチは値段差があり、ピンからキリまで商品があります。
何が違うのかを私なりに考えて、3つの違いがあると考えています。
- ギヤの歯数
- 構造強度
- メンテナンス性
・ギヤの歯数
プレセット型(プレロック型)トルクレンチは、ラチェットハンドル(ソケットハンドル)になっているので、内部構造にギヤがあります。
その内部ギヤの歯数が細かければ細かいほど、設定トルクの精度が高いという事になります。
・構造強度
内部構造がスプリングやカム構造になってるので構造自体が精密に作られていない商品は、壊れやすく設定トルクの誤差が生じやすい。
・メンテナンス性
トルクレンチは狂う工具です。
どれだけ価格が高価なトルクレンチを使っていても一生は使えません。
そこで必要なのはメンテナンスです。
自身で部品を買って出来る方は問題ないでしょうが、簡単ではありません。
ほとんどの方は工具メーカーに依頼してメンテナンスを行なっているので、メーカー自体がメンテナンス対応していない商品を買うと使い捨てとなります。
自分でトルクチェッカーという設定トルクが合っているのかを測定する機器を購入する事も出来ますがかなり高価なのでおすすめはしません。
トルクレンチが狂う理由
どのトルクレンチも必ず狂います。
多く使われているトルクレンチは機械式で、内部にスプリングやカムを使ってトルクを測定します。
このスプリングの摩耗やヘタリ、カムの摩耗など内部部品自体の経年劣化が必ず起こります。
センサーでトルク測定行うトルクレンチでも同じで経年劣化はどうしても起こります。
下記画像はシグナル式トルクレンチの内部構造です。
引用元:WIKIMEDIA FOUNDATIONより
トルクレンチの種類
トルクレンチには大きく分けて2種類があります。
- 直読式
- シグナル式
直読式トルクレンチ
直読式トルクレンチは、トルクレンチに付いてある目盛りの数値を直接読み取りながら作業するトルクレンチ。
ほとんどバイク整備の現場では見た事がありません。
検査用トルクレンチと考えていいでしょう。
私自身も1度使った経験がある程度で、実際に見る事も少ないです。
シグナル式と違って、検査用として使う事が出来ます。
検査する場合は緩める方向に直読式トルクレンチを回す事で現在のトルク値が計測出来ます。
更に、直読式トルクレンチには2種類あります。
各種類に測定できるトルク値の範囲によってサイズが多数あります。
- ビーム型(プレート型)
- ダイヤル型
・ビーム型(プレート型)
ビーム型(プレート型)の直読式トルクレンチは、力を加えた時にトルクレンチの先から目盛りまである矢印のようなものがたわむ事によって、目盛りでトルクの値を測る事が出来ます。
構造が単純な事によって、他のトルクレンチより安価で壊れにくく精度が高いのがメリットです。
しかし、作業性が悪く、目盛りが1人では読み取りづらいのがデメリットとなります。
引用元:株式会社東日製作所公式HPより
・ダイヤル型
ダイヤル型の直読式トルクレンチは、円柱のねじれ角によってトルクを測り、ダイヤルの目盛りでトルクの値を測る事が出来ます。
ダイヤルに置き針があり、トルクの最大値を記録するので1人でも測定は出来て精度も高いのがメリットです。
しかし、ビーム型に比べて大きく重量があり価格も高価になるのがデメリットとなります。
引用元:株式会社東日製作所公式HPより
シグナル式トルクレンチ
シグナル式トルクレンチは、はじめに設定したトルク値に達したら、音や振動などで作業者に伝える事が可能なトルクレンチです。
シグナル式トルクレンチが1番多く使われているトルクレンチとなります。
更に、シグナル式トルクレンチには3種類あります。
各種類に測定できるトルク値の範囲によってサイズが多数あります。
- プレセット型
- プレロック型
- デジタル型
・プレセット型
プレセット型のシグナル式トルクレンチは、設定トルクを簡単に設定出来て設定トルクに達すると作業者に伝わるようになっています。
伝える方法は、「カチッ」っと機械音や振動などで伝える方法はそれぞれの工具メーカーで様々となります。
直読式と違って直接目盛りを読み取る必要が無いので、作業性が格段に上がり簡単になります。
一般的に多く流通しているタイプのトルクレンチは、このシグナル式のトルクレンチです。
操作が簡単で比較的価格も安価なのがメリットです。
しかし、設定トルクが簡単に変更出来るので設定ミスなどのリスクもあり、使用方法や保管状況によって設定トルクが狂う事がデメリットとなります。
また、持ち手の位置が変わると設定トルクに達していなくても達したかのように作業者に伝えてしまいますので注意が必要です。(詳しくは使い方で説明します。)
・プレロック型
プレロック型のシグナル式トルクレンチは、設定トルクを設定すると簡単に変更出来ないようになっています。
設定トルクに達すると作業者に伝わり、伝える方法はプレセット型と同様になります。
設定トルクをロックする事が可能なので、設定トルクを1度設定すると簡単に変更出来ないので間違えるリスクが無くなるのがメリットです。
しかし、設定トルクを変更しようとすると分解などをしないと出来ない為変更が簡単に出来ないのがデメリットです。
また、持ち手の位置が変わると設定トルクに達していなくても達したかのように作業者に伝えてしまいますので注意が必要です。(詳しくは使い方で説明します。)
基本的に、工場や検査用に使われるトルクレンチとなり、バイク整備には不向きなトルクレンチ。
引用元:株式会社東日製作所公式HPより
・デジタル型
デジタル型のシグナル式トルクレンチは、見た目の大きな違いは目盛りがデジタルになります。
トルクを簡単に設定出来て、設定トルクに達すると「ピー」っとデジタル音や「ピカッ」っと光るなどで伝える方法があり、それぞれの工具メーカーで様々となります。
トルクの測定方法が他のトルクレンチと違い、他のトルクレンチはスプリングやカムなど機械的な構造でトルクを測定しますが、デジタル式はセンサーによって電気信号に変換して測定します。
目盛りがデジタル式で見やすく、設定トルクに達した時に音や光で伝えてくれるのでオーバートルクになりずらいのがメリットです。
また、センサーでトルクを測定するので持ち手が変わっても設定トルクにズレが出ません。
しかし、価格が高価になるデメリットもあります。
引用元:株式会社東日製作所公式HPより
・デジタル式の別対タイプ
デジタル式のトルクレンチで別対タイプの商品もあります。
何が別対かというと、トルクレンチ本体がソケットでコンパクトになっていて、自身が持っている工具(ラチェットハンドルorソケットハンドル)に取り付けてトルクレンチとして使えるようになる商品です。
コンパクトになり、自身の工具を使えるので扱いやすいです。
工具メーカーで色々商品がありますが、お手頃で使いやすいので【TONE ハンディデジトルク】を紹介します。
引用元:TONE株式会社公式HPより
トルクレンチの使い方や注意点
一般的に多く使われているシグナル式のプレセット型トルクレンチの使い方です。
デジタル式に関しては特に難しくないので省略します。
(直読式は使う方が圧倒的少ないと考えますのでこちらも省略。)
メーカーによって若干使い方が違うので説明書は必ず読もう!
シグナル式のプレセット型トルクレンチの部分名称は、
・ヘッド
反対側にソケットレンチや六角レンチなどを取り付け可能。
・回転切替レバー
基本的に締める方向にしか使わないのでそちらに切り替えておく。
・本体
内部にスプリングなど機械式の構造が入っている。
・主目盛り
10N•m単位で刻まれている。
・副目盛り
1N•m単位で刻まれている。
・グリップ
トルクを設定する時にこの部分が回りトルク値を変更する。
このグリップ部を持って締めましょう。
・ロックつまみ
正ネジ方向と同じで締めるとロックが出来て緩めるとロック解除となる。
使い方は、
- 規定トルクを設定
- ある程度ボルトやナットを締めてからトルクレンチで締める
- 振動や「カチッ」と音がする所で止める
- トルクレンチを使い終えたら必ず最低値orフリー状態に
- 専用ケースに入れて保管
1.規定トルクに設定
サーブスマニュアルに記載してある規定トルクを必ずチェックしてからトルクレンチを設定します。
ロックつまみが緩んである事を確認してグリップを回しトルク値を設定する。
引用元:アズワン株式会社公式HPより
1回転で10N•mで1回転の間で副目盛りで1〜9N•mの単位を設定します。
引用元:アズワン株式会社公式HPより
設定完了後にロックつまみをロックする。
引用元:アズワン株式会社公式HPより
2.ある程度ボルトやナットを締めてからトルクレンチで締める
ある程度他の工具でボルトやナットを締めておく。
トルクレンチを使って締めていくのも問題はありませんが、なるべくトルクレンチをトルク管理以外で使うのは控えましょう。
不必要な使用を控える事でトルクレンチが狂うのを抑える効果があります。
また、トルクレンチは持ち手の位置でもトルクがズレます。
必ずグリップ部を持って締めましょう。
3.振動や「カチッ」と音がする所で止める
規定トルクに達すると振動や音で伝わります。
必ずその地点で締めるのを止めましょう。
ここでやりがちなのが「カチッカチッ」と2回鳴らしたり、また再度トルクレンチを締める方向に回して「カチッ」と音をさせる事です。
これは【オーバートルク】です。
回していて途中で振動や音が鳴ればそこが規定トルクです。
それ以上回すと締まってないように感じますが、少し回っているので必ずオーバートルクになります。
また、トルクレンチを使って締め始めようとした時に、ボルトやナットが回っていないのにすぐに規定トルクに達した場合は、1度ボルトやナットを緩めてから再度トルクレンチで締め直しをして下さい。
トルクレンチは、ボルトやナットが回っている状況でトルクを測定して作業者に伝えます。
締まっている状態でトルクレンチを使っても意味がありません。
それ以上のトルクで締まっている可能性もあるからです。
必ずトルクレンチを使って規定トルクにする場合は、ボルトやナットが規定トルク以下で締められる状態でスタートしてトルク管理をして下さい。
トルクレンチは、動摩擦で測定すると覚えましょう。
4.トルクレンチを使い終えたら必ず最低値orフリー状態に
使い終えたら必ずトルク設定値を最低値以下にしてロックつまみをフリー状態にしましょう。
トルク値をそのままにしておくとスプリングやカムに圧力が掛かったままになってしまいます。
その状態が長く続くとヘタリや劣化が早まりトルク値が狂います。
5.専用ケースに入れて保管
トルクレンチは精密機械です。
必ず専用ケースがあるはずなので専用ケースに入れて大事に保管しましょう。
基本的にトルクレンチでボルトなど緩めたりしないように!
壊れたりしないけど精密機械なのを忘れないようにね。
トルクレンチのまとめ
トルクレンチとは、
- 【現在行っている作業(ボルトなどを締めている)が、どのくらいの力で締められているのか】
- 【設定値に合わせる事が出来る】
トルクレンチが無いと次にような事が起きる。
- 締め付け不足による脱落、破損
- オーバートルクによる破損
- オーバートルクによる緩み
- 締め付け不足やオーバートルクによる性能低下
高いトルクレンチと安いトルクレンチの違いは、
- ギヤの歯数
- 構造強度
- メンテナンス性
どのトルクレンチも必ず狂います。
多く使われているトルクレンチは機械式で、内部にスプリングやカムを使ってトルクを計測します。
このスプリングの摩耗やヘタリ、カムの摩耗など内部部品自体の経年劣化が必ず起こります。
センサーでトルク計測行うトルクレンチでも同じで経年劣化はどうしても起こります。
トルクレンチの種類は、
- 直読式
- シグナル式
更に直読式は、
- ビーム型(プレート型)
- ダイヤル型
更にシグナル式は、
- プレセット型
- プレロック型
- デジタル型
トルクレンチの使い方は、
- 規定トルクを設定
- ある程度ボルトやナットを締めてからトルクレンチで締める
- 振動や「カチッ」と音がする所で止める
- トルクレンチを使い終えたら必ず最低値orフリー状態に
- 専用ケースに入れて保管
以上が【トルクレンチ編】バイク整備に使う工具を初心者にもわかりやすく解説でした。
ありがとうございました!